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CMMI&アジャイルコンサルタント

CMMIのプラクティス領域と適用効果

CMMIを使うと何が嬉しいの?

システム情報、CMMIコンサルティング室の小林浩です。第4CMMI&アジャイルコンサルタントのブログをお届けします。
今回はCMMIの各プラクティス領域(PA)に含まれるプラクティスを参照すると「何が嬉しいのか?」について、現場および管理者の視点から私の考えを述べたいと思います。

プロフィール 小林浩

1.主に現場にとって嬉しいPA

ここでは「開発」「サービス」「供給者」の業務領域に関連するPAの中で、主に現場に役に立つPAと、現場にとって何が嬉しいか、私自身や私のお客様の経験を基に表にまとめてご紹介いたします。

PA名称・略称
PAの意図
参照して嬉しいこと
見積もり(EST)
 ソリューションの開発、取得、または提供に必要となる、作業と資源の規模、工数、期間、および費用を見積もる。
・見積根拠を明確にするためのヒントが得られる。結果として見積精度が向上する。
・見積と実績の乖離に早期に気が付く。
・振り返りができて見積の改善に繋がる。
 計画(PLAN)
 組織の標準と制約の中で、作業を達成するために何が必要かを記述する計画を作成する。
・プロジェクトや作業を計画する際に、何を行うべきかが分かる。
監視と制御(MC)
実績が計画より著しく逸脱する場合には、適切な是正処置がとれるようにプロジェクトの進捗を理解できるようにする。
・監視と制御を効果的に行うためには、計画をしっかり立てる必要があるという意識が向上する。
・課題管理のポイントを理解できる。
リスクと機会の管理(RSK)
潜在しているリスクまたは可能性のある機会を特定し、記録し、分析して、管理する。 ・リスク管理のポイントを理解できる。
・リスクだけでなく機会を管理する重要性に気が付く。
・何か起きてから対応するという受け身の対応ではなく、起きる前にできるだけ手をうって主体的に対応しようとするマインドが醸成される。
原因分析と解決(CAR) 選定された実施結果の原因を特定し、望ましくない実施結果の再発を予防するか、好ましい実施結果が繰り返されるようにする。 ・原因を追及する際のポイントを理解できる。
・悪かったことだけでなく、良かったことも原因を分析することが重要であることに気が付く。
決定分析と解決(DAR) 選択肢を分析する記録されたプロセスを使用して、決定を行い記録に残す。 ・より良い選択ができるようになり、後で「こちらを選べばよかった」という後悔が起きる可能性が減る。
・選択した経緯が記録に残り、選択に失敗したときに振り返って改善できる。
・記録に残すことで過去の知見を活用し、より良い意志決定ができる。
構成管理(CM) 構成の特定、バージョン管理、変更管理、および監査を用いて、作業成果物の一貫性を管理する ・作成物や必要書類を探す時間、紛失あるいは不適切な上書きによる再作成する時間などの無駄な時間が減少する。
・過不足無く、かつ適切な内容の成果物をお客様に納品できる可能性が高まる。
実績と測定の管理(MPM) 事業目標を達成するため、測定と分析を使用して実績を管理する。 ・数値を用いて現況を客観的に理解できるようになる。
・何を目標に何をどの程度改善すべきか明確になる。その結果、組織やプロジェクトの目標達成の可能性が高められる“価値の高い改善”に焦点を当てられるようになる。
要件と解決の管理(RDM) 要件を引き出し、利害関係者が共通の理解を確実に持つようにし、要件、計画、および作業成果物を整合させる。 ・お客様の要件を引き出して整理してまとめるための重要なポイントを理解できる。
・要件変更時に意識すべき重要なポイントを理解できる。
・要件の追跡可能性の重要性に気が付く。
【開発】
技術ソリューション(TS)
顧客要件を満たすソリューションを設計して構築する。 ・要件を満たすためのより良いソリューションを選択できるようになる。
・設計・構築作業の重要なポイントを理解できる。
【開発】
成果物統合(PI)
機能性と品質に対する要件を取り上げるソリューションを統合し、納入する。 ・成果物の統合の際の計画策定の重要性を理解できる。
・成果物の統合の作業の重要なポイントを理解できる
【サービス】
サービス提供管理(SDM)
サービスを提供し、サービス提供システムを管理する。    ・サービス提供時の重要なポイントを理解できる。 ・サービスを支援するシステム(人間系を含む)の構築・変更時に考慮すべきポイントを理解できる。
【サービス】
インシデントの解決と予防(IRP)
迅速に混乱を解決し予防することで、サービス提供レベルを維持する。 ・障害発生から解決に至るまでの一連の活動における重要なポイントを理解できる。
・障害予防の重要なポイントを理解できる。
【供給者】
供給者選定(SSS)
供給者候補から提案を求めるために使用する資料一式を作成し、最新に保ち、そしてソリューションを納入する一つ以上の供給者を選定する。 ・最適な供給者を選定する可能性が高まる。
・供給者と良い関係を構築できる。(契約後に「そんな話は聞いていない」と揉める可能性が減る。)
【供給者】
供給者合意管理(SAM)
選定された供給者との合意を確立し、供給者と取得者が合意に書かれた条項に従って確実に実行し、供給者納入物を確実に評価する。 ・供給者に丸投げするのではなく、どんな観点で管理すべきかの重要なポイントを理解できる。
・結果として、供給者から、高品質の成果物を約束した納期に得られる可能性が高まる。
検証と妥当性確認(VV) 検証と妥当性確認には以下の活動が含まれる:
• 選定されたソリューションと構成要素がそれぞれの要件を満たすことを確認する
• 選定されたソリューションと構成要素がそれぞれの対象環境にて意図した用途を実現していることを実証する
・テストやレビューを実施する際の重要なポイントを理解できる。(計画の策定、結果の分析など)
・実際にシステムを使用するあるいはサービスを受けるエンドユーザによって、実環境(あるいはそれに近い環境)で確認すること(妥当性確認)の重要性に気づき、また実施時の重要なポイントを理解できる。
ピアレビュー(PR) 製作者の同僚または内容領域専門家によるレビューを通して、作業成果物における課題を特定し対処する。 ・テストと同様に、レビューに関してもしっかりと計画を立て、結果を分析することが重要であることに気が付く。
・結果として、レビューの効率や効果が向上する。

いかがでしょうか。もしかしたら、やることが沢山ありすぎて大変そうだと思った方もいらっしゃるかもしれません。そこで、次のことをポイントとして補足させていただきます。

CMMIは現場に対して難しいことを要求しているのか?

私はCMMIのアプレイザルやギャップ分析のインタビューの中で、現場のPMやエンジニアの方にCMMIについて感想を聞くことがあります。多くの方は「改善のための色々なヒントをもらった」と言ってくださるのですが、時折「ほとんど知っていることばかりで、新たな学びはあまり無かった」と言う方もいます。私はそのような人に出会うと嬉しくなります。なぜなら彼らは「CMMIは特別なことを要求しているのではなく、優れた人材が当たり前にやっていることをまとめたもの」であることを、私に改めて気づかせてくれるからです。
 しかしながら優れた人材であっても、自分はなぜ優れているのかを理解している人は少ないと思います。CMMIはその人が優れている理由を様々な視点から教えてくれます。優れた人材がCMMIを使いながら自分が行っていることを体系化して整理して説明できるようになることで、周りの人への知識共有やスキルトランスファーが効率的かつ効果的に行えるようになります。

CMMIは現場に対して難しいことを要求しているのか?

2. 主にマネジメントや管理グループにとって嬉しいPA

次に、主にマネジメントや管理グループにとって役に立つPAと、彼らにとって何が嬉しいか、前述と同様に私自身や私のお客様の経験を基にご紹介いたします。

 

PA名称・略称
PAの意図
参照して嬉しいこと
プロセス管理(PCM)
以下の目的で、プロセスとインフラの継続的な改善を管理し、実装する:
• 事業目標達成の支援
• 最も有益なプロセス改善策の特定と実装
• プロセス改善の結果を可視化し、アクセス可能とし、持続可能とする
・組織全体のプロセス改善で、行うべきことが分かる。
・プロセス改善は、組織のパフォーマンス改善に繋げる必要があることに気が付く。
プロセス資産開発(PAD) 作業実施に必要なプロセス資産を開発し、最新に保つ。 ・組織の標準プロセスや資産の開発・保守で行うべきことが分かる。
・テーラリングの重要性と、そのための指針や基準の必要性に気が付く。
【サービス】
戦略的サービス管理(STSM)
戦略的な事業ニーズと計画に適合した標準サービス群を開発し、展開する。 ・現在実施しているサービスを整理するときのポイントを理解できる。
・お客様のニーズと組織の戦略に合わせて、サービスメニューを追加・変更・削除するなどして適宜見直せるようになる。(サービスメニューの陳腐化を防ぎ、競争力を維持・向上する。)

(当PAはプロジェクトやその他の現場レベルでも活用可能)
【サービス】
継続(CONT)
業務を継続または再開できるように、事業運営上の重大な混乱に対する軽減活動を計画する。 ・災害時等に重要なサービスを速やかに復旧するためのポイントを理解できる。
・災害時等に社員やお客様の安全を確保するためのポイントを理解できる。

(当PAはプロジェクトやその他の現場レベルでも活用可能)
組織トレーニング(OT) 人員にスキルと知識を身につけさせ、役割を効率的かつ効果的に遂行できるようにする。 ・現在提供しているトレーニングを見直し、組織の事業戦略に合ったトレーニングを提供できるようになる。
・各トレーニングの効果を高められる。
プロセス品質保証(PQA) 実施されたプロセスと、その結果である作業成果物の品質を検証し、品質の改善を実現可能にする。 ・社員が優れたプロセスに従って仕事をするようにコーチングできるようになる。
・現場の優れたやり方を収集し、標準プロセスや資産の改善に繋げることができるようになる。
統治(GOV) プロセス活動におけるスポンサーシップと統治の役割について上級管理層へ手引きを提供する。 ・組織のトップの意向を各階層の管理者が腹落ちし、自分自身の言葉で自部門の目標を語り、部下が理解するようになる。
・何のために改善をしているか、管理者が自分の言葉で語り、部下が理解するようになる。
・管理者が改善状況を数値で客観的に理解できるようになる。
実装のインフラ(II) 組織にとって重要なプロセスが、習慣的かつ持続的に用いられ改善されるようにする。 ・良いやり方が定着し、人が変わった後に廃れたり、忙しい場合にスキップされたりせず、確実に続き、かつ継続的に改善されるようにするためのポイントを理解できる。

以下、ポイントとして何点か補足いたします。

統治(GOV)のPAの進化レベル1のプラクティス

統治(GOV)PAでは進化レベル1(「まずはこれから実施しましょう」のレベル)のプラクティスは一つだけ定義されています。それは、
「上級管理層は、業務遂行において何が重要かを特定し、組織の目標を達成するために必要なアプローチを定義する」
というものです。さすが上級管理者向けのPAですね。レベル1の段階からとても重要で、かつ難しいことを述べています。「何が重要かを特定」し「必要なアプローチ」を定義するためにはどうすれば良いのでしょうか。私はCMMIのPAを活用することでそれが容易に理解できると考えています。
「何が重要かを特定」のために全てのPAの説明(意図と価値の部分)を一通り読んでください。そしてその中から自組織の戦略に照らして重要なPAを選んでみてください。
「必要なアプローチ」を定義するためには、選択したPAに含まれるプラクティスを一通り読んでみてください。何をすべきかのヒントが得られると思います。

第3回のブログで、プラクティス領域(PA)とプラクティスの具体的な内容について、「見積もり」のPAを例に説明しておりますので、ご参照ください。

中国企業とCMMI

統治(GOV)の話に関連して中国の企業の事例を紹介します。私は年に数回、中国企業のアプレイザルを行います。その際、企業や組織の経営者や上級管理者と話をするのですが、彼らは例外なくCMMIをよく理解した上でプロセス改善を行っています。彼らの指導の下、現場は組織の標準プロセス、ガイド、テンプレートを実直に使用し、それを通して仕事の進め方を学びます。
私は、中国のアプレイザルを始めた当初は、彼らがCMMIを使うのはCMMIの成熟度レベル達成の称号の獲得が目的であり、実質的な改善にはあまり興味が無いのではと考えておりました。しかしながらアプレイザルを何回か実施するうちに、どの企業の経営者も現場のメンバーもCMMIを本気で学び、成長しようとしていることが分かってきました。彼らはCMMIでやるべきこと(What)を学び、組織の提供するガイドやテンプレートを通じて具体的な方法(How)を学び、開発に必要なポイントを体系的に理解し身に着けていきます。つまりトップから現場のメンバーまで、CMMIの提供するプラクティス、言い換えれば「成功している組織が何をやっているか」を理解しているわけです。私はCMMIが、彼らの製品の品質や生産性の向上に、私達の想像以上に貢献しているのではないかと思うようになりました。
そう思ったもう一つの理由は、大前研一氏の著書でした。彼は「日本の論点2022~23」の中で次のように述べています。
「CMMIはアメリカ政府などの調達基準として利用されていて、たとえば“レベル4以上でないと、政府が発注するシステム開発に携わることができない”、というように規定されているのだ。だからソフトウェア開発企業はCMMIのレベル上げに必死になる。個人レベルで言えば、いわゆるアーキテクチャーまで構想できる”システムエンジニア”がどんどん育っていく。こういうことも一つの背景にあり、アメリカがソフトウェア大国になっていったわけだ。またインドのソフトウェア大手はコストが安いからではなく、レベル5であるが故世界中から安心して発注を受けている。」
大前さんは中国については述べていませんが、実は2019年から2021年に実施された約9500件のCMMIベンチマークアプレイザルのうち、中国企業を対象に実施されたものは73%を占めます。(参照:CMMIパフォーマンスレポート
つまり、今ではアメリカやインドの企業よりも多くの中国企業がCMMIを活用して学び成長しているのです。一方でCMMIを活用している日本企業の数は横ばいです。私はこのままでは日本のソフトウェア開発企業が中国の企業に差をつけられてしまうのではないかと危惧しています。

日本企業とCMMI

最近の面白い事例を一つ紹介いたします。株式会社エヌアイデイ様(以下NID)という、独立系のSIerに関する事例です。私は数年前からNID様の社員の方々にアジャイル・スクラムのトレーニングを提供しており、品質管理部門に対してはアジャイルに関するコンサルティングも行いました。NID様は私がトレーニングやコンサルティングを通して提供した情報も参考に、社内向けのアジャイル開発標準を作成され、更にはその内容を基に、2023年4月3日に書籍「実践スクラム ~スクラム開発プレイヤーのための事例」を出版されました。この書籍にはNID様が実際に社内で提供しているアジャイル開発向けのテンプレートやサンプルがたくさん含まれており、特にNID様と同様なSIerの方々には大変参考になる書籍だと思います。
NID様が短期間でアジャイル開発標準を作成し、更に書籍まで作成できたのは、ISO9001やCMMIに基づいたマネジメントシステムを確立しており、会社の標準プロセス資産とそれらを開発・維持・展開する体制が整っているからだと私は思っています。興味がある方は是非チェックしてみてください。
ちなみに、システム情報では長年CMMI レベル5の成熟度を維持しており、また、CMMIやPMBOK等に基づいた開発標準であるSICPを策定しています。SICPにはNID様と同様にアジャイル標準も含まれており、その初版は今から10年前の2013年にリリースされました。この初版はかなりの短期間で作成し展開することができたのですが、実現できたのは、組織としてのマネジメントシステムが確立されていたからではないかと思っています。

日本企業とCMMI

今回のブログはいかがでしたでしょうか。CMMIのPAの雰囲気や、CMMIを使用して何が嬉しいのか、少しでも理解していただけば幸いです。
CMMIについてはまだまだお話したいことがたくさんありますが、次回からの数回は気分を変えて「匠Method」をテーマにお届けします。CMMIについてはまた近いうちに記事にしたいと思います。

当ブログのプロダクトバックログアイテム

  • ブログ開始のご挨拶とCMMIのご紹介【2023/06/05 UP】
  • CMMIの定義する組織成熟度とその特徴【2023/6/19 UP】
  • CMMIのプラクティス【2023/7/19 UP】
  • CMMIのプラクティス領域と適用効果 【今回】
  • 匠Methodの概要その1-基本コンセプト ※次回予定
  • 匠Methodの概要その2-モデルの内容 
  • 匠Methodの概要その3-適用事例 
  • CMMIとアジャイル、APH
  • CMMIの効果的な使い方
  • SE4BSのご紹介
  • アジャイル・スクラムの学び方
  • アジャイル品質パターン QA2AQのご紹介
  • アジャイルのフレームワークやツールキット(SAFeやDA)の紹介とCMMIとの関連
  • GQM+Strategiesの概要、CMMIとの関連、匠Methodとの関連
  • SEMAT

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